江のブログ

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大企業の管理職:会社を本気で良くしたいと思っている人がいない件

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 落ち目大企業の研究所に在籍して約20年,今はプレイヤー兼管理職の立場ですが,自分の周りの管理職たちを見ていて辟易とするのが,「本気で会社を良くしようと思っている人が殆どいない」ということです。おそらく日本の大企業の会社組織はどこも似たりよったりなので,ウチの会社だけではないはずです。

なぜ管理職は会社の将来を担うため選抜されたはずなのに,このような状態になっているのか?ずっと疑問だったので備忘録的に考えてみました。

 

組織のための努力=会社のためのはずだが・・

 まず大前提として,会社の中の組織である以上,部門のための努力・成果は会社の好業績につながるようになっているはずですし,所属する組織長やメンバーはそのように行動するのは当然のことです。そして,会社が好業績になれば,その産業界や日本全体にも良い影響をもたらします。さらには,それが社会貢献となり自己肯定感という形で個人に還元されて,また個人から組織,組織から会社へ,という好循環がまわるのが理想だと思います。これに異論がある人は少ないのではないかと思います。

 

 しかし現状は,大企業の中で年々ポストが減りながらも選ばれてきた管理職であるにもかかわらず,会社全体を良くしようなどとは露ほどにも思っていないということです。考えているのはほとんど自分と自分が所属する組織のことだけです。

 そのやり方長期的な会社の発展など考えてのものではなくて,自分がその組織に所属している期間に,いかにうまくやったように見せられるか?落ち目の企業だと,どうやったら社内の組織間の生存競争を勝ち抜けるか?ということばかりに腐心します。そのため,先に書いたような,個から会社,会社から社会,社会から個へといった好循環が全く生まれていません。その結果,会社の業績もイマイチで,社員のエンゲージメントも低いといった状態になっています。

大企業中央研究所の実態

 実際こういった会社では何が起きているかという,例えば自分が所属する本社管轄の総合研究所では,世の中の流行りのバズワードを取りいれた,見てくれ重視の,最初から失敗が目に見えている研究ばかりになってきています。

 必ず失敗するので,最初からどうやって失敗していないように見せるか?ということばかりに気をつかっています。展示会で賞をとったり,実用化は無理なので学会などのコミュニティに熱を入れて賞を取ったりして溜飲を下げる,ということをやります。しかし,いずれも会社の業績どころか事業化にすら結びつきませんし,やっている本人たちがずっと研究をやっていたいので事業化する気もないのです。むしろ,実用化するとアカデミックなことができないので,事業化してほしくないと思う人もいるくらいです。

大企業中央研究所の実態:組織

 そして組織の面では,会社全体の売上や規模が小さくなっているにも関わらず,研究所の規模を維持したり,さらには拡大しようとさえします。経済や会社の規模が縮小し,やることなくなっているのに,規模増やしてどうするのだろうか?と思いますが,それでも組織の規模拡大こそが組織の成功であり,それを盲目的に信じて押し進めているのです。

 理系の研究者について日本国民が何となく思っている,「無能な経営者によって,研究予算を減らされ,自由な研究をやらせてもらえない,かわいそうな企業研究者」というメージがありますが(無能な経営者は正しいですが),これは違っていて実際は全く逆なのです。

それでは次に,なぜこのような状態になってしまったのかについて考えてみます。

 

その原因:日本の労働市場の流動の低さ

 まず,自分や自分の所属している組織を守ろうという,官僚的で小役人的な価値観の原因について考えてみます。よく言われることですが,大企業の研究所だけでなく,広く日本の会社全体に強く存在するこの特徴は理由は,日本の労働市場の低さにあると思われます。

流動性の低さで「組織厨」が量産される

人材の流動性とは産業分野間,会社間,社内という様々単位で定義されます。この中で直接,自分の組織しか考えない会社幹部を生む原因となるのは,会社間,社内での人材流動の低さです。

 まず,人材の流動性が高く,例えば社外から来た人が組織の長になる場合を考えます。この場合,長く居ないと分からない部署の文化や,部署内外の過去のしがらみや人間関係も分かりません。そのため,本人にとって部門の評価=会社の役立つことをするであり,愚直に会社の業績につながることにフォーカスせざるを得なくなります。以降は本人の能力次第ではありますが,個から会社,会社から社会,社会から個へといった好循環が回ります。 

 

 しかし,会社間,社内で人材の流動性が低いと,組織のメンバーは固定化されます。異動は無いわけではないですが,基本的に組織に人材を抱えようとするので,10年単位でメンバーは固定化されます。また,戦略的に異動させる場合でも,本社の経営企画部など会社の中枢に人を送り込んで,自部門に優位に取り計らうよような狙いが背景にあったります。

 さらに同じ組織に長く居ればいるほど,部署の文化,過去のしがらみや人間関係に基づいて現状を分析して,自分が所属する組織の価値を示すことが可能とになってしまいます。愚直に会社に役立つことだけに努力を傾けるより,政局に努力を傾けた方が効率よく会社幹部に組織の存在価値を示せてしまうのです。いったんこうなってしまうと,もう止まりません。会社の業績回復などという難しいお題に挑むのはみんな避けて,今ある組織の中でいかに良く見せるかということばかりに執心するようになります。

 

一方,仮にこのようなどうしようもない土壌があったとしても,さらに上位にいる会社幹部やさらその上には社長がいて下部組織を監視しているのに,なぜこの状況が変わらないのか?というのは疑問です。

 

「組織を守ることが最優先」がなくならない理由

 間違った組織の長を止めるには,下からいくらいっても,声は届かないし,場合によってはつぶされてしまいます。それでは誰が変えられるのかというと,組織長より1つ上位のレイヤーにいる会社幹部です。仮に一部の管理職が会社の利益より組織優先の行動をとったとしても,もしそれを監視する正しい目をもつ会社幹部がいれば,そのような動きは淘汰されるはずです。

 しかし,そうった会社幹部は自分によほどの不利益がない限り,組織優先の行動を咎めません。見て見ぬふりをするどころか,コロッとだまされたり,むしろ応援しているように見えてしまいます。

 なぜそのような行動をとるのかというと,何より会社幹部たち自身がそのように生き(抜い)てきて,その上で評価されてきたからです。つまり組織を守ることが正しいという価値観を持ち,それを実行することで評価を得てきたということです。もともと組織が守ることが正しいと思っていて,その通り評価された人達は,やはり同類の後輩たちが組織を守る行動をとっていれば,彼らを評価してしまうのです。

社長は直下の経営幹部のことしかみてない

それではさらにその上のレイヤーにいる,社長とかが間違いを正せばいいじゃないかとなります。しかし,2つ以上も上位のレイヤーにいってしまうと,もはや監視の目は行き届きません。実際大企業ともなると,社長の考えなど殆ど現場に降りてきません。せいぜいその下の取締役の考えが時折降りてくるくらいです。

以上をまとめると,「組織が固定化+会社の業績悪化→自分と自分が所属する組織のことしか考えない管理職が生まれる→上位の経営幹部はその状態を放置,その上の社長の監視の目は行き届かない→組織が会社の業績に結び付かない行動をとり続ける→業績悪化→・・・」ということで,負のサイクルがエンドレスに続くということです。

まとめ

 日本社会の人材の流動性の低さという文化的な背景と,一度負のサイクルがはじまってしまい組織存続を最優先とするマインドを持った組織長と経営幹部が一体となった集団の形成というのが進んでしまった会社では,これを変えるのは非常に困難だと思います。変えるには,本当に変革の意識を持った経営者が外部から人材を登用するしかないですが,それも「社内のことを何も分かっていない!」といちゃんもんをつける古株の抵抗で難しい・・・ということで,今後も日本企業は変わらないのではないかと思います。