江のブログ

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CPS(サイバーフィジカルシステム)技術で日本はもう一度輝けるのか?また失敗すると思う理由

 CPS ( cyber-physical system:サイバーフィジカルシステム)やDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をご存じでしょうか?2000年くらいにIT革命という言葉がブームとなりましたが,IT化は既存ビジネスの効率化のためにデジタル技術を活用するものです。

 一方,DXは一歩進んで,デジタル技術を使って新しいビジネスを作ることを意味します。一例としてメルカリのDXは有名です。

 昔は(今もありますが),一般消費者が中古を売買するときいはブックオフやハードオフを使うしかありませんでしたが,今ではアプリを使って簡単に日本全国でその中古商品を見て貰い値付けしてもらうことが可能です。これにより売買双方の利便性が劇的に高まりました。

 そして今後は,こういったデジタル技術(Cyber:サイバー)が中心のDXだけではなく,これまで開拓が十分でなかったハードつまりPysical:フィジカル(製品)と融合した,CPS ( cyber-physical system:サイバーフィジカルシステム)を活用した新しいビジネスモデルが注目されているのです。

  最近の国際競争では連戦連敗の日本企業(特に大企業)ですが,「日本はモノづくりをはじめフィジカルに強い,だからCPSを使ったビジネスモデルで日本に勝機あり」といった言説をよく耳にするのです。しかし,これは本当でしょうか?CPSを標榜する大企業に所属している自分だからのこその視点で,この件を考えてみたいと思います。

 

CPSの時代の到来による日本復活のシナリオ

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 2000年のIT革命以前,日本の国際競争力が高かったころ,世の中に浸透して聞く技術は殆どが日本製であり,私たちにとってそれが当たりまえでした。

 しかし,IT革命以降は,新しくやって来るのは、アメリカを中心とした外国製の技術ばかり。日本企業も何もしてなかったということはなくて,当然IT技術の開発はやってましたが,技術開発競争に敗れたり,ガラパゴス化して顧客の満足に答えられなかったりが続きました。

  つまり日本は,2000年以降に隆盛となったデジタル技術(Cyber:サイバー)をビジネスにおいて連戦連敗だったのです。

 

 一方,表舞台では,次々に技術革新や新しいビジネスが生まれ,米国のGAFAや,中国のBATHが席巻してきました。これらの企業がどういったビジネスでどれほど成功してきたかは皆さんがご存じの通りです。

 しかし,10~20年が経過し,Cyber(IT)技術を中心としたビジネスも少しずつではありあすが,飽和しつつあります。

  そこで今後伸びるのではないかと予想されているのが,Cyber技術にモノづくりを含むPhysical技術(ハード)を融合したCPS( cyber-physical system:サイバーフィジカルシステム)技術です。

 現に,GAFAやBATHらCyber技術を中心としたビジネスの勝者も,自動運転やドローン,など,Physical(ハード)の革新技術と融合した新たな領域でのビジネスを模索しはじめています。

 

 そこで俄然日本で盛り上がってきているのが,CPSの時代到来による日本企業の復活のストーリーということです。

  そこで言われるのが,日本は元々モノづくり強国であり,フィジカル(ハード)が強い。GAFAやBATHも日本のフィジカル領域の技術がのどから手が出るほど欲しいと思っている。

第二次デジタル革命(CPS)では日本に勝機がある,という主張です。

  この言説は一見,説得力があります。また,説得力があるだけではなく,連戦連敗で自信を失いつつある日本人を高揚させるセンテンスだと思います。

 

日本がCPSで上手くいかないと思う理由

「モノづくり大国ニッポン!」の郷愁に浸っている

  まず第一次デジタル革命で日本が敗北した経緯を振り返ってみます。

 この日本はモノづくりへのこだわり、あるいはモノづくり至上主義から抜けられずに、敗北しました。 

 自分は,実際に大手メーカーに在籍しながら身をもってそれを感じていました。デジタル技術の到来に全く対応できず何もできずに敗れる。

 それどころか,相手にならないと思っていた韓国・中国に,得意としてきたモノづくり分野でさえ敗れる始末。

 しかしそんな中でも,驚愕させられるのが,そんな状況でもなお,モノづくりは日本の強みなのでこれからの変らず力を注ぐべき,と主張して譲らない人達がいた,いるということです。

 

 そしてそういった人たちは,「これからはサイバーと組み合わせたフィジカルの時代だ」「GAFAやBATHがフィジカル技術をのどから手が出るほど欲しがっている」といった言葉に,踊らされて「やはりモノづくりこそ日本が生きる道!」と思ってしまいがちです。

 

一度痛い目にあったモノづくり大国ニッポンへの郷愁を感じさせる言説にように聞こえます。

 本当にモノづくりの時代であるのなら,ここ数十年でモノづくりの特定分野で日本に追いつき追い越した中国・韓国だって強いはずだと思うのです。

CPSを使ったビジネスのアイデア・製品が横並び

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 それと同時に感じるのが,CPSのアイデアとして出てくるのがありきたりなものしかないということです。

 でてくるのは,デジタル技術を活用したちょっとした現場改善ばかりでビジネスとしては小規模なものばかり。

 また,大きいものでも,各社口を揃えたように,モノづくり大国ニッポンを回顧させる,モノづくりとデジタル技術を融合した「スマートファクトリー」といったようなものばかり。

  スマートファクトリーというのは,「考える工場」とも言われて,工場から出てくるデータをAIなどデジタル技術を使って解析し,生産プロセスを効率化・高品質化する概念です。

 

 実はこのスマートファクトリ―自体が,ドイツが2011年発表されたインダストリー4.0の中心となる概念で,10年の遅れがある上にアイデア的にも2番煎じ感がぬぐえません。

 実際問題,ドイツのシーメンスがマインドスフィアというスマートファクトリ―化のためのシステムを商用化し,業界をリードしています。

 日本でも日立が「LUMADA(ルマーダ)」,富士通が「COLMINA(コルミナ)」,東芝は「Meister(マイスター)」という製造IoTのシステムを売り出しています。

日本は内向きで国際化に乏しい

f:id:enoshima07:20210403110928p:plain これらのサービスはいかに顧客に寄り添って,製品・サービスを売り込むかが重要です。

 しかし,国際化に乏しい日本企業がどれだけで世界の企業のこれらの商品を売り込んで成功するのか甚だ疑問です。

 まず言語体系が日本語と,世界標準の英語でコミュニケーションをしていることは大きなマイナスです。英語は,米英だけでなく,欧州のドイツをはじめとした国々ではかなり皆さん当たり前のように話せます(実際に隣国に2年住んでいたので分かります)。

 この言語の問題と,日本人の内向きな気質からして,日本のサービスを海外に,他国のライバル以上に上手く売り込むのは難しいのでは?と思います。

 

 また,日本市場の日本企業だけガラパゴス的に相手にして事業展開することも考えられますが,同じような商品で勝負して,ただのパイの食い合いに終わらないのか?こちらも甚だ疑問です。

 これはまるで,同じような生活家電を10社くらいで横並びで作っていた,30年以上前の状態を想起させます。

 ともかく,ここ数年でてくるアイデアというのが,せっかくデジタル技術を使っているのに細かな現場改善にとどまって入り,大規模なものでは,横並びで海外企業から周回遅れのスマートファクトリのシステムばかりなのです。

 

 自分が社内でもCPSを使ったビジネスモデルのアイデアだしなどありますが,上記以外,デジタル技術を使って〇〇するという手段が目的化してしまっているのが現状です。

giron.hateblo.jp

 

日本に勝機はあるのか?

 正直な話,この変化のスピードが求められる世の中で,日本のような人材の流動性が低い国は対応ができず,極めて不利です。

 また,米国は世界中から優秀人材が集まる,中国は人は集まらなくても自国に10億を超える人口がいる。その規模から選抜された優秀人材と,日本のたかだか1億から選抜された優秀人材を比較しても,日本人がいくら優秀だとしても勝ち目はありません。

なので,全体に見れば日本経済は厳しいと言わざると得ないと思まいます。

 しかし,だめだだめだと文句ばっかり言っても良くないので、ではどうすればいいのかということです。

 

 明確な答えは持ち合わせていませんが,日本の持つ良いところ,真面目さ緻密さエキセントリックさといったところをスパイスに,海外の良いところ取り入れた新しいビジネスを創出する,あるいは新しいビジネスの進め方にシフトすることが重要だと思っています。

 そして,日本の労働市場の人材の流動性を増して(簡単ではないですが),そういった勝ち目のある新しい分野に人が容易に移れるようにすることだと思います。

今でも日本が国際的に強い分野がある

 その例として,今でも日本が強みを発揮している分野はあります。

 一時期世界を席巻した家電など,完成品の産業では見る影もないですが,それを形作る部品,素材は今でも強いです。

 半導体も,規模や分野は限られますが,CMOSイメージセンサーは強いですし,何より半導体装置や,ウエハはガスなどの原材料では日本メーカーは強いです。

 これらに共通するのは地味で地道な努力の積み上げが成果につながるような分野です。完成品など派手で目立つところは,欧米どころか中韓にすら取られて,勝負にめけ続けているのは対照的です。

 ただこれらの産業も,似たような文化背景を持つ中韓企業や,MI(Materials Informatics)などの分野の到来で競争力が低下するのはと言われています。

 

 一方,エンタメ分野でいうと,ゲーム業界では2000年以前,日本のテレビゲームは世界を席巻しましたが,その後ガラパゴス化し,海外のゲーム会社が当時のPS3などの最新機種の性能を生かしたオープンワールドゲームをリリースしたことで,一時期,日本のゲームメーカは駆逐されました。

 しかし,日本ゲーム業界の世界的な立ち位置は復活し,2020年前後に『Game of The Year』を連発しています。オープンワールドという海外で発展したゲームスタイルを取り入れ,しかも日本が大事にしてきた緻密さや,日本独特のテイストを加えることが再び大成功しているのです。

 アニメに似たような変遷を経ていて,一時期一般向けだったものが,萌え系ばかりのマニア向けになったりしてガラパゴス化しかけました。

 しかし,近年は,海外アニメの3D映像や海外ドラマの重厚なストーリーを取り入れたアニメが次々とリリースされ評価されています。

日本が国際競争力を取り戻す方向性

 これらに共通するのは材料・素材分野に見られた地味で地道な努力の積み上げという日本の特徴を生かしながらも,合理性や派手さダイナミックさといった海外の良いところを取り入れているということです。

 また,これらにより製品・サービスのコンテンツ自体の価値を高めているので、日本人の内向きな性質があっても,国内だけでなく,十分に海外展開もできているということです。

 今後の日本の競争力復活のためには、欧米が先行しているCPS(フィジカル+IT,DX)などではなく,上に挙げたような分野をいかに多く創出するかが重要なのではないかと思っています。そして,(簡単ではないですが)日本の労働市場の人材の流動性を増して,そういった勝ち目のある新しい分野に人が容易に移れるようにすることが重要だと思います。

おわりに

 今回は,CPS(サイバーフィジカルシステム)とは何かについて説明した後,CPSが日本の復活の起爆剤として期待されているものの実際現場にいるとあまり期待できないこと,日本が強みを発揮して国際競争力を高めるに必要な方向性について書きました。

 正直,日本の生き残りの道はこれぐらいしかないと思っているので,この方向で世の中が変わっていくのを期待したいと思います。