江のブログ

より良い世の中・人生に向け,意見・ライフハック・アフィリエイト・便利アイテム・語学について発信します

大企業研究所の現状①~やることがなくなってきた中央研究所とその生存戦略

f:id:enoshima07:20200906130701j:plain

 こんばんは,えの吉です。自分は某有名大企業の中央研究所に勤めているのですが,皆さんどのようなイメージをお持ちでしょうか?

 理系のエリートが集まっているイメージ,将来の技術開発のため日夜研究に励んでいるイメージかもしれません。また昨今の日本企業の国際的な競争力の低下のため業績が悪化した結果,予算が削られて日本の将来に必要な研究ができなくなっているかわいそうな人たち,という印象もあるかもしれません。

 しかし,実際に長く研究所にいると,世間のイメージとはかけ離れた実態が見え隠れします。

 

1.中央研究所はやることが無くなってきている

 中央研究所というと,冒頭で書きましたように,優秀な人材がいるも,業績の悪化の影響を受け,技術が分からない経営陣に不当に研究予算が削られている,そしてやりたい研究ができなくなっている,といったイメージがあるかもしれません。

 しかし実際,15年以上も大企業の研究所に在籍し,特にこの5年くらいで強く感じているのが,中央研究所は研究ネタ不足でやることが無くて困っているということです。

 この理由は簡単に言ってしまいますと3つありまして,1つ目は事業規模の縮小,2つ目は旧来的なモノづくり分野でのイノベーションの枯渇,そして3つめは今後の伸びることが確実視されているデジタル技術分野での戦略・実力不足,といったところになります。

 まず1つ目の,分かり易い事業縮小の影響について見ていきたい思います。

日本の競争力低下と事業撤退

 近年,日本の競争力が低下しこれまで強かった,家電,テレビ(液晶,プラズマ),半導体,携帯電話などなど,あらゆる分野でこのたった15年くらいで(自分の在社期間ですが),欧米やさらには韓国にTOPの座を譲りました。さらに最近では,たった10年前まで負けることはないと誰もが信じていた中国にさえ,コストだけでなく技術で負けて,完全敗北して事業撤退や売却を重ねてきています。

 この結果,かつて大企業を支えた事業部に所属していた人達は,リストラされたり,いつの間にか,外国資本の企業になったりして,人生設計も大きく変わるような変化が強いられることになりました。

giron.hateblo.jp

事業撤退が続いても存続する中央研究所

 一方,本社に属している中央研究所やそこの所属する研究員は,事業が売られたらとしても,基本的には移ることは無く,本社に残ることになります。これは,中央研究所は,新事業立ち上げのための研究をしている,あるいは特定の事業に限らない共通的な技術開発や研究をしているから,という理由で,一定の正当性を持った理由ではありです。しかしその結果,事業は減っているのに,中央研究所の人員は減らず,会社全体の売上規模の割に明らかに研究員の数が多いという状況が生まれてしまっているのです。

 

ポイント

大企業は事業を切り売りして人員が削減されているのに,中央研究所は殆ど人員削減をせずに存続できているという不思議

 それではこの状況に対して,生き残るために研究所はどのような戦略をとっているのでしょうか?

 研究ネタが無くなっている2つ目の理由である「旧来的なモノづくり分野でのイノベーションの枯渇」,そして3つ目の「今後の伸びることが確実視されているデジタル技術分野での戦略・実力不足」についても次の『研究所の生存戦略』に絡めて論じていきたいと思います。

 

2.研究所の生存戦略

 このように売り上げ規模の割に研究員が多いという状況は数値化できてしまうので,鈍感な日本の経営陣でもその異常さには気づきます。

しかし,自分が所属する組織を守ることにかけては世界一の日本の大企業ですから,対応を考えます。可能性としては次の4つくらいの選択肢があります。

 

  1.  研究員の人員数をキープして,事業が減ったので次の飯の種を研究する
  2.  研究員の人員数をキープして,経営陣が言うキーワードに忖度して研究するフリをする
  3.  研究員の人員数をキープして,これまで研究対象としてこなかった既存事業のための研究にシフトする
  4.  研究員が余っていることを認めて,事業部に人を移す

 

 まず今回は,1番最初の「研究員に人員数をキープして,事業が減ったので次の飯の種を研究する」について見ていきます。

 これは一見,理想的な対応に見えます。会社の状況で仕方なく利益率の高い事業を売ってしまった場合,会社としてやるべきことは次の会社を支える新しい事業を作ること,そして研究所はその実現のための核となる高度な技術を開発することです。

 これは実現できれば素晴らしいことで,新事業が誕生し会社の業績は改善,全ての大企業がこのトレンドにのれば日本経済の復活すら見えてきます。実際,このような絵姿で無邪気に研究所に期待をする幹部たちもいます。

しかし,実際にはこれは理想論であって,残念ながら現状を見ると非常に困難と考えています。

 

3.新規事業のための研究が困難な理由

新規事業創出には,これまで何年も失敗してきた負の実績がある

 理由は2つあります。

 1つは,この10~20年の間,今とほぼ同じ姿勢で日本企業は新事業の立ち上げを模索してきたのです。次の飯のタネになることを目指し,今以上に研究費を投入するも,ことごとく失敗してきているのです。むしろ昔の方が状況はまして,稼げる事業は少なくとも1つ以上あり,研究開発に資金を十分投入できました。

 しかし,果たして結果は殆どの研究が途中どまり,いわゆる死の谷を超えることができず,何1つ新しい事業が生まれることはありませんでした。

 実際に、皆さんもこの10~20年の間に,日本発の技術革新を感じたことないのではないでしょうか?ぱっと思いつく技術革新は,スマホや有機EL,AI(を搭載した家電)などのいずれも日本企業が蚊帳の外にあるような分野ばかりなのです。

注力分野を見誤って新事業創出に失敗

 それでは,なぜ日本は企業はここ10~20年の間に,新技術の開発および新事業の創出に失敗し続けてきたのでしょうか?理由は3つあります。

 1つ目は,イノベーションが起きる技術分野を見誤ったということです。

 日本の大企業の研究者の殆どは,古いものづくり事業の研究者です。戦後から20世紀は,ものづくりの分野はここ掘れば研究成果がでる,というアリ食(ぐ)い状態で,生真面目で職人気質の日本人研究者が成果を出しやすい研究環境でした。

しかし,20世紀に研究成果がかなり掘りつくされた結果,科学は無限といいながらも,応用展開できる技術の総数が相対的に減っていきます。その結果,モノづくりの優秀な研究者はたくさんいて,彼らは頑張るんだが,事業化に全く繋がらないという状況が長く続きました。

 一方,ITやデジタル技術の分野の研究はイノベーションの連続で,開発された技術はあっという間に実用化され,世の中を変えてしまいました。しかし,その主役は日本ではなくアメリカや中国でした。このように日本は研究を頑張ってはいたものの,十分に注力できなかったり,ガラパゴスかして研究の方向性を見誤ったりと,「頑張り方」を間違えて何一つ事業化できずに終わってしまったのです。

 それではなぜ,努力する方向を間違ってしまったのでしょうか?具体的には,成熟してネタ切れを起こしていたモノづくり分野に固執して,これからの伸びるにITやデジタル分野に注力しきれなかったのす。

旧来的なモノづくりの次世代技術に固執してしまった理由

  それには2つ理由があると考えています。

 1つは生じっか,日本が1970~90年にモノづくりの分野で強かったことが原因にあると考えられます。具体的には,このような強い分野があると,日本の大企業の中では,その分野の権威と呼ばれるいわゆる大御所が現れます。これらの大御所は強い発言力を持って,研究費予算も自分野に優位に交渉することができます。その結果,もう成熟して更なる発展が望めない分野なのに,「まだまだやることがある!」と主張します。また,その意見に誰も反論できないので,成果の乏しい研究が永遠と続けられることになるのです。

 そうした分野の研究は,これから伸びる研究分野に見られるまだ実用化は遠いものの将来の期待に溢れたアカデミックな研究内容とは似て非なる,永遠に実用化されることのない重箱の隅をつついたような学会発表のためだけの趣味の研究になっていきます。そのような研究が実用化や事業化されるでしょうか?そもそも実用化も事業家もするつもりもなくやっているので,成功するはずがありません。デジタル技術がイノベーションを連発してたのとは対照的に,果たして失敗を重ね何一つイノベーションを起こせないで今に至ってしまったのです。

 

4.大企業の中央研究所はデジタル技術でGAFAに勝負できるか?

 それでは,心を入れ替えてイノベーションの起きているデジタル技術でGAFAと勝負できるのでしょうか。これはこれで,とても困難だと考えています。

 これを研究者や研究所の幹部の両面から見てみます。

研究者の分野違い

  実際のところ,大企業の研究所には,いわゆるエリートと言われる優秀な層が集まっているのは間違いないと思います。東大,京大をはじめとしたトップ大学出身の学生は数多くいますし,その中でのトップオブトップの学生もたまにきます。

 しかし現在中央研究所に所属している研究員を見ると,従来の事業ポートフォリオを反映して,モノづくり系事業向けの研究に特化した研究をしている人が多いのです。つまり,これからデジタル技術にやろう!といっても専門分野が違うのです。人材のポテンシャルとしては高いので,新しい分野を学ぶスピードも速いのですが,入社時点で専門知識や技術を持っているGAFAのエリート人材には勝ち目はありません。

 こうなると,採用で優秀なデジタル人材を採ってくるしかないです。しかしながら,旧来的な(イメージの)モノづくりを主体として大企業の研究所に,ものづくり系の優秀人材は集まっても,デジタル分野での優秀人材は集まらないのです。これはインターンシップの応募してくる学生の専門性を見てみても,はっきりと傾向が表れています。そして優秀なデジタル人材は,高給を約束するGAFA(Google Apple Facebook Amazon)やそれに類する企業に流れてしまっています。

 このように,研究員側の視点で見た時に,既にGAFAという巨人が存在してしまっている今ではなおさら,デジタル技術の分野で日本の中央研究所が勝っていくことは困難です。

研究所幹部の能力不足

 次に,研究所の幹部についてですが,ここが本当に酷いところなのですが,そもそもデジタル技術やそれを使ったビジネスに理解のある幹部が殆どいません。

 研究所の中期計画に発言権があるのは,モノづくり系の研究の大御所か,デジタル技術の分野では2流の”社内”権威のみです。そのような,デジタル技術をどう使っていけばいいか分からない人たちが,どうやってデジタル技術を使った新事業創出のための研究計画を立てられるでしょうか。このような大企業の研究所幹部と,今正にデジタル技術を使って莫大な富を生み出す源泉となっている研究所とそれを指揮する幹部をもつGAFA,今後も差は縮まるところが開いていくばかりなのでは,と悲観せざるを得ません。

 以上のことから,日本の大企業の中央研究所では,研究者側の視点からでも,研究所の幹部の視点から見ても,デジタル技術の分野で成功するのは困難なことが分かります。

 すなわち,ここまで長くなりましたが,次の研究ネタに困って存在意義が疑われ始めている中央研究所の生存戦略の1つとして,『研究員の人員数をキープして,事業が減ったので次の飯の種を研究する』というのは今後の生き残り戦略として実現困難であることが分かります。

  •  研究員の人員数をキープして,事業が減ったので次の飯の種を研究する
  •  研究員の人員数をキープして,経営陣が言うキーワードに忖度して研究するフリをする
  •  研究員の人員数をキープして,これまで研究対象としてこなかった既存事業のための研究にシフトする
  •  研究員が余っていることを認めて,事業部に人を移す

 

 だいぶ長くなってしまったので,次回は残りの3つの生き残り戦略について見ていきたいと思います。

5.まとめ

  今回は,大企業の研究所に15年以上在籍して,その間の日本企業の国際競争力低下と,それに伴い変化した社内の研究所の立ち位置,それをうけた研究所の生存戦略の一部について記事にしました。もちろん良くなって欲しいと思っているのですが,これに必要な変化には,これまた日本の会社間および社内における人材の流動性の低さが妨げになっていると考えています。これについて次回の記事にかいていきたいと思います。